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New Virtual Production project
See project「これはスーパーヒーローの映画ではない」というのが、「The Witcher(ウィッチャー)」のショーランナー、Lauren Schmidt Hissrich(ローレン・シュミット・ヒスリッチ)から最初に受けた指示でした。プロデューサー陣は、「The Witcher(ウィッチャー)」の世界が現実にあると信じられるような世界観を目指していたため、現実味のある、物理的な現象に基づいたエフェクトを演出することを望んでいました。そのためMateusz Tokarz(マテウシュ・トカルズ)率いるVFXチームは、不可能なことでありながらも何が起こっているかわかるようにすることを重視し、控えめなエフェクトを目指しました。
私たちがGeralt(ゲラルト)に初めて出会ったのはNetflixシリーズではありませんでした。2007年から2015年にかけて、当社スタジオは「The Witcher(ウィッチャー)」を世界に名を馳せるブランドに押し上げたビデオゲーム3部作のシネマティクスと予告編を制作しています。また、長編映画やドラマでの実写化を最初に提案したのもPlatige(プラティージ)でした。私たちは、「The Witcher(ウィッチャー)」ほどの大作でVFXトの制作を一手に引き受けることは不可能なので、本作のVFXを担当する唯一のスタジオではありませんでしたが、重要な部分の大半を担っていたうちの1社でした。作品全体のVFXは、「Camelot(邦題:CAMELOT 〜禁断の王城〜)」や「Vikings(邦題:ヴァイキング ~海の覇者たち~)」で有名なJulian Parry(ジュリアン・パリー)が指揮を務めました。
PlatigeのVFXチームはプリプロダクションの段階からプロジェクトに参加し、「The Witcher(ウィッチャー)」に登場する魔法のビジュアル構築を担当しました。
「私たちが創り出した超自然はすべて、『さりげなく』、『優雅に』の2つの言葉をキーワードに生み出されています。この2つの言葉こそ、ショーランナーのLauren(ローレン)が魔法に対する彼女の考えを説明した言葉です。魔法をあっと言わせるものにしながら、同時に説得力のあるものにすることが非常に重要でした。」と、Platige Image(プラティージ・イメージ)のアート・ディレクター、Rafał Sadowy(ラファウ・サドウィー)は説明しました。
エフェクトの開発は、火、水、竜巻、大気放電、路上で暑い空気が光の屈折を生む蜃気楼など、自然界で参考となるものを集めることから始まりました。当社のアーティストは、現実の現象と物質を組み合わせて、初めて見る新しい世界を作り出しました。例えば、「The Witcher(ウィッチャー)」に登場するマジックポータル(魔法の入り口)は、液体の表面と衛星画像でよく見る渦巻き雲を融合して作ったものです。
「当社がポーランドを拠点にしていることで、実際、この種の作品に取り組むことが多くなっていると思います。」と、Platigeの社内VFXスーパーバイザー、Mateusz Tokarz(マテウシュ・トカルズ)は語っています。「ポーランドで私たちは肌寒い冬、ノスタルジックな秋、美しく陽気な春を楽しむことができます。『The Witcher(ウィッチャー)』の魔法は気象現象から起こっている設定なので、イメージとなる気象現象を日頃から見つけることができます。」とも付け加えました。
イメージがコンセプトになり、そのコンセプトがスクリーンの世界に表現されるまでには時間がかかりました。プロデューサーと大まかなアイディアについて議論し、方向性を定めた後、プロジェクトに関わるアーティストがあらゆるエフェクトの演出プランを考え始めました。彼らのアイディアが承認され、アーティストはやっとCGの作成に取り掛かることができました。
「私たちの担当作業は、ディレクター、ショーランナー、プロデューサーのそれぞれの承認を得て、複数のレベルで合格をもらう必要がありました。このプロセスは、みなさんからすると骨が折れるように見えるかもしれませんが、常にそういう仕組みの中でプロジェクトが進行していきます。」とTokarz(トカルズ)は付け加えました。
魔法は、Platige Image(プラティージ・イメージ)の専門知識が必要とされるものの1つにすぎませんでした。スタジオでは複雑なショットを数多く撮影し、Renfri(レンフリ)のピンの位置を調整したり、血しぶきを追加したりと、簡単な修正を加えました。成功させるのが最も難しかったのは頭部の爆発でした。血しぶきのエフェクトとのバランスを取る必要があり、爆発する脳が不自然に見えるのもおかしいし、またリアルすぎて気分が悪くなるような表現になることも避けなければなりませんでした。いつもそうしているのですが、チームはエフェクトの表現のための参考資料の収集から始めました。今回のケースでは、彼らは「Scanners(邦題:スキャナーズ)」の有名な頭部爆発シーンと「Elysium(邦題:エリジウム)」の手りゅう弾の爆発による顔面破壊のシーンを研究しました。
「この頭部はエピソード5で出てきますが、このエピソードではVFXが最も頻繁に使われました。私たちはデフォーメーションを得意分野とするRafał Kidziński(ラファウ・キジンスキー)に助けてもらいました。彼は、頭蓋骨の構造と様々な発疹や充血の極端な症例を分析して、もっとも自然に見えるようにしてくれました。」と、Mateusz Tokarz(マテウシュ・トカルズ)は述べています。
もう1つの問題は、シーンがアナモフィックレンズで撮影されていたため、画像が歪んで、横方向のボケとビネットが発生してしまったことです。どちらも実写映像においては良いエフェクトですが、VFXを画像に合成するのが難しくなります。そこでディストーションマッピングと参考資料を使用し、CG画像の形状を適切に調整し、実写映像とシームレスに合成しました。
シリーズの全てのエピソードに私たちのアーティストが創り出したエフェクトが使われていますが、コンセプト段階での開発は速かったものの、膨大な作業はメインの撮影の後に行う必要がりました。6か月の締切は絶対で、それに合わせるとなると1つのエピソードにかけられる時間は平均3週間でした。また、ストーリーの後半で登場するエフェクトのあるシーンが予告編で使われることになり、早急に作業が必要になりました。
「これは、エピソード4の終わりのシャン・カヤンの木のシーンのことです。これは私たちにとって最初の大きなシークエンスでしたが、予告編に間に合わせるために非常に短期間で制作しました。また、Yennefer(イェネファー)の変身シーンにも協力しました。当初は変身シーンに私たちのエフェクトが使われる予定はなかったので、Netflixから真の信頼を得られたと実感しました。」と、Platigeの社内VFXスーパーバイザー、Mateusz Tokarz(マテウシュ・トカルズ)はコメントしています。
「The Witcher(ウィッチャー)」の魔法のシーンを制作するのに費やした6か月間は非常に厳しいものでしたが、チームは締め切り前に全ショットを納品できただけでなく、同時にワークフローも改善できました。パイプライン部門に手伝ってもらい、ファイル処理を完全に自動化し、受信したすべてのデータを瞬時にカタログ化して使えるフォーマットに変換できるようになりました。このソリューションと、「The Witcher(ウィッチャー)」で使用したビジュアル言語の基本も確立済みで、当社のVFXアーティストはさらに多くのことに臨めます。
Michał Puczyński(ミハウ・プチンスキー)